groundwater
地下水研究部会
概要
1.設立の背景と目的
応用地質学会では,1995年に発生した兵庫県南部地震後の「阪神・淡路大震災調査特別委員会第三分科会」の設立を契機に,これに引き続き設立された「地下水変動研究小委員会」,「応用地質学における地下水問題研究小委員会」による活動を通じて,応用地質学における地下水に関わる諸問題について議論が行われてきた.2011年度まで実施された「応用地質学における地下水問題研究小委員会(第二期)」では,「都市域の地下水」と「割れ目系岩盤と地下水」をテーマとして取り上げ,応用地質学における地下水問題の取り扱い方を様々な事例に基づき検討し,地下水管理・利用の提言に向けてシンポジウムの開催等活動を行ってきた.
しかし近年では,都市域への人口の集中や産業構造の変化,地下水を水源とする専用水道の増加,大深度地下空間利用の進展といった社会構造の変容や,地球規模の気候変動に伴う集中豪雨の増加等の環境変化とそれに伴う斜面崩壊等の自然災害の増加,あるいは2011年3月の東日本大震災における津波被災地での地下水汚染や福島第一原子力発電所の事故に伴う放射性物質の環境中への拡散等の自然・人為の複合災害など,地下水にかかわる問題は多様化・複雑化してきている.その一方で,国によって「健全な水循環系構築のための計画づくりに向けて」が策定され(2003年10月),改めて地下水が水循環系の一部として位置づけられ,地下水を地表水と一体的に管理・保全するために,地下水の在り方を把握することが求められている.また,2011年3月の東日本大震災以降,災害緊急時の水源としての地下水の需要が益々高まっている.
地下水研究部会は,このような地下水問題の多様化・複雑化や,地下水への社会的な関心・需要の高まりに対して,地下水問題研究小委員会等の活動で蓄積されてきた知見を活かして取り組み,その成果を応用地質学分野に携わる本学会の会員や社会に向けて発信していくことを目的として設立されたものである.
2.活動の方針と内容
2.1 活動方針
地下水研究部会は、以下の方針で活動を実施している.
①応用地質学にかかわる地下水研究を行う.4つのワーキンググループ(広域都市圏における地下水WG,ダム・トンネル・斜面を対象とした亀裂性岩盤の地下水WG,放射性廃棄物地層処分における岩盤地下水WG,放射性物質の地下水による移行WG)による研究活動を継続するとともに,研究活動の発展ならびに部会活動の活性化を目的として各ワーキンググループ間の連携や情報共有化を図る.
②研究部会を年4回程度開催し,各ワーキンググループからの話題提供ならびに意見交換を行う.
③地下水にかかわる課題を対象としたセミナー等を開催する.
④ワーキンググループでの研究活動を通じて若手技術者への技術の継承を図る.
⑤学会誌やホームページ等を通じて活動情報を適宜公表する.
2.2 活動内容
地下水研究部会は4つのテーマについてワーキンググループ(以下、WG)を設置しており,WGごとに会合や内部セミナー等を定期的に開催して研究活動を行っている.以下に,各WGのテーマと活動の概要を箇条書きで紹介する.
WG1:広域都市圏における地下水
〇首都圏等の広域都市圏において,長期にわたる観測結果に基づいて以下を検討している.
- 人間活動や地球温暖化に伴う気候変動が地下水環境(地下水の地球化学性状や涵養・流動機構,地下温度分布等)に及ぼす影響
- 地下地質構造・地層の堆積環境・地下水流動と地下水中の自然由来重金属等の分布の関係
〇水循環基本法や水循環基本計画に対する応用地質学分野としての捉え方について検討している.
WG2:ダム・トンネル・斜面を対象とした亀裂性岩盤の地下水
〇ダムやトンネルの建設サイトにおける亀裂性岩盤中の地下水,ならびに斜面地についての地下水について検討している.
〇ダム・トンネルを対象にボーリング孔内水位や原位置試験データを収集・分析し,岩盤浅層部の地下水ポテンシャル分布を考慮した地下水面形状を検討している.
WG3:放射性廃棄物地層処分における岩盤地下水
〇放射性廃棄物処分にかかわる亀裂性岩盤中の地下水について検討している.
〇以下の検討課題について,参加している委員が国内外の実データや検討事例を持ち寄って検討を行っている.
- 断層や断層破砕帯の水理的な特性
- 断層よりも規模の小さい割れ目の水みちとしての重要性
- 割れ目の透水性を支配しているメカニズム
- 亀裂性岩盤中の地下水流動のモデル化
- サイト選定において着目すべき構造
〇特に,断層や断層破砕帯の水理的な特性については,実データや検討事例が集まってきており,議論が深まってきている.
WG4:放射性物質の地下水による移行
〇東京電力福島第一原子力発電所の事故により,周辺環境中に放出された放射性物質の地下での挙動について検討している.
〇福島第一原発西方の阿武隈山地に広く分布する花崗岩類に到達した放射性物質の挙動,特に割れ目内の移行に着目し検討している.
〇現地調査を実施し,花崗岩類の露頭において,湧水を伴う割れ目とその周辺における空間線量率の分布の把握等を進めている.
構成メンバー
部会長
林 武司(秋田大学)
副部会長
石橋 正祐紀(鹿島建設)
幹事(WG座長)
石橋 正祐紀(鹿島建設) 竹内真司(日本大学) 宮越昭暢(産業技術総合研究所) 万木純一郎(建設技術研究所)
委員
磯村 敬(八千代エンジニヤリング) 伊藤成輝(ニュージェック) 大石 朗(八千代エンジニヤリング) 奥田英治 長田昌彦(埼玉大学) 河口達也(応用地質) 草野由貴子(原子力発電環境整備機構) 工藤圭史(国際航業) 小泉 謙(日本工営) 昆 周作(土木研究所) 斎藤 庸 塩﨑 功(エンジニアリング協会) 清水公二(清水麓駈技術士事務所) 末永 弘(電力中央研究所) 鈴木弘明(八千代エンジニヤリング) 竹内竜史(原子力発電環境整備機構) 徳永朋祥(東京大学) 冨樫 聡(産業技術総合研究所) 八戸昭一(埼玉県環境科学国際センター) 濱元栄起(埼玉県環境科学国際センター) 平野智章(日本工営) 平山利晶(国際航業) 細谷真一(大日本ダイヤコンサルタント) 森口安宏(川崎地質)
部会活動記録(令和5年度)
1) 研究部会の開催
定例部会を下記の日程で開催し,活動方針や年間予定,WGの活動体制等を審議した.
第1回部会(令和5年7月11日(火))
2) 活動状況
[WGによる活動]
WG1:広域都市圏における地下水
埼玉県平野部ならびに富山県平野部の観測井を対象として,地下温度・地下水位の観測とモニタリングを前年度から継続して実施した.データの収集と情報共有を図るとともに,地域特性や人為影響の抽出等,地下水・地下熱環境変化に関する検討を進めた.
WG2:ダム・トンネル・斜面を対象とした亀裂性岩盤の地下水
公開資料の豊富なダムの工事誌等を対象に地形と地下水に関する事項を収集し,地山形状と地下水に着目してデータ整理と解析的検討のアプローチを進めている.井戸理論式と浸透流解析の感度分析を試行した結果を議論した.
WG3:放射性廃棄物地層処分における岩盤地下水
地下深部の割れ目系岩盤における地下水流動の理解を目指して,地層処分に関わる事例を中心に検討を継続している.地層処分事業に関する近年の進展・変化を踏まえて,これまでの事例検討を振り返り,今後の検討課題と活動方針に関して意見交換を行った.
WG4:放射性物質の地下水による移行
福島県南相馬市および阿武隈山地西側の領域を事例調査地区として,水理地質学的な調査や地下水流動解析などを継続した.成果の一部を関連学会の学術大会において報告した.なお,本WGの研究の一部については,民間の研究助成金を使用して実施した.
[部会・セミナーの開催]
セミナーを下記の日程で開催した.
- 第1回セミナー(令和5年8月2日(水))
ガルバニック相互作用による黄銅鉱起源の酸性水の発生と砒素の溶出ダム事業における「立体的岩盤透水性評価手法」の内容と実践事例に関するセミナーを開催した.
「令和5年度 応用地質技術実践講座」として,地下水調査に関わる講習会を下記の日程にて開催した.
- 第1回 7月19日(水)~7月21日(金) 座学・現場研修
- 第2回 9月28日(木)~9月29日(金) 現場研修
- 第3回 10月20日(金) 座学
[部会活動状況の公表]
①にかかわるWG1による成果の一部を,本学会の令和5年度研究発表会にて報告した.研究部会の活動の一環として,新潟県荒川下流域において2022年11月に実施した水文環境調査について,概要を研究部会だよりにて報告するとともに,成果の一部を本学会の令和5年度研究発表会にて報告した.
[現地見学会の実施]
なし