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平成23年度 定時社員総会およびシンポジウム

日時

平成23年6月17日(金)
11:00?12:00 定時社員総会
13:00?17:30 シンポジウム
※シンポジウム後に意見交換会を開催いたします(会費5,000円を予定)

会場

日本大学文理学部
百周年記念館国際会議場
東京都世田谷区桜上水3-25-40

京王線 下高井戸駅または桜上水駅下車 徒歩10分

※会場には駐車場がありませんので,公共交通期間をご利用ください

資料集代

一般会員2,000円,学生会員500円(予定)

CPDH

4.5時間(シンポジウムを聴講の場合)

定時社員総会

総会の構成員は役員および代議員ですが,当学会員であれば誰でも総会を傍聴することができます.

シンポジウム

テーマ:「応用地質学の変遷と将来展望」

主催

一般社団法人 日本応用地質学会

プログラム

1.シンポジウム開催の主旨

わが国の応用地質学は,戦前戦後の鉱山地質から1960年代から始まる高度成長期の中で,社会資本整備に伴う大型土木構造物の建設に欠かせない科学技術として発達してきました.このような時代背景から,日本応用地質学会は1958年に創設され,応用地質学の主導的学会として機能してきました.しかし,1990年代以降は新規事業の削減により,応用地質技術者がこれまでと同じように活躍できる場面が減少しています.一方では,環境問題の顕在化,気候変動による災害ポテンシャルの増大,放射性廃棄物に代表される負の遺産など,環境負荷や自然災害の低減や,資源・エネルギーに関わる課題は多く残されています.このような,国土建設の時代から環境調和型社会の構築への転換期において,応用地質学および応用地質技術者の役割は時代のニーズとともに変化し,また活躍する舞台も国内から国外へと拡大しています.本シンポジウムは,これからの応用地質学と応用地質技術者が果たすべき役割について,議論を深めていくことを意図するものです.

2.プログラム

基調講演
13:00-14:00 応用地質学の将来展望
 西垣 誠 教授(岡山大学大学院)
特別講演
14:00-15:00 海外業務での光と影-中国での吊橋技術を中心にして-
 沈 赤 氏(株式会社 長大)
シンポジウム
15:10-15:35 災害大航海時代から国土管理時代へ
 佐々木 靖人(土木研究所)
15:35-16:00 環境地質学の現状と今後の展望
 稲垣 秀輝(環境地質)
16:00-16:25 応用地質学の方法論としての地形情報取得技術の進歩と未来
 向山 栄(国際航業)
16:25-16:50 地下水を扱うという立場から考える応用地質学の将来展望
 徳永 朋祥(東京大学)
会長からのメッセージ
16:50-17:10 東日本大震災に対する学会の対応
 千木良 雅弘(日本応用地質学会 会長)
シンポジウム総合討論
17:10-17:45 総合討論
 司会:中筋 章人(日本応用地質学会 副会長)

報告

実施概要

 日本の応用地質学は,戦前戦後の鉱山地質から高度成長期の中で,社会資本整備に伴う大型土木構造物の建設に欠かせない科学技術として発達してきました.しかし,国土建設の時代から環境調和型社会の構築への転換期において,応用地質学および応用地質技術者の役割は時代のニーズとともに変化し,活躍する舞台も国内から国外へと拡大しています.本シンポジウムは,これからの応用地質学と応用地質技術者が果たすべき役割について,議論を深めていくことを意図し開催されました.シンポジウムの各講演に先立ち,元地下水学会会長の岡山大学の西垣誠教授に「応用地質学の将来展望」と題し,基調講演をいただきました.特別講演としては株式会社長大の沈 赤(シン・チー)博士に「海外業務での光と影-中国での吊橋技術を中心にして-」と題し,近年その発展が目覚ましい中国の橋梁建設に携わってきた経験をご講演いただきました.各講演の概要は以下に掲載します.詳細は予稿集を是非ご一読下さい.なお,予稿集の購入に際しては,学会事務局までお問い合わせ下さい.
 また総合討論の前には,千木良雅弘会長から今回の東日本大震災を受けて本学会が今後の取り組むべき課題について提言と,設立50周年記念行事特別委員会記念出版物編集部会の大塚康範幹事から記念出版物の発刊についてのアナウンスがありました.あわせてその概要を報告します.

 

基調講演「応用地質学の将来展望」

西垣 誠 教授(岡山大学大学院環境学研究科)

  「応用地質学の将来展望」というテーマで,現在,先生が取り組んでおり,また課題と考えていることについて基調講演をいただいたものである.以下に講演の概要を示す.

 科学は人間を幸せにするためにあると考えている.しかし,科学が進歩すると本当に幸せなのか分からなくなってきた.例えば,携帯電話やメールができて忙しくなった.便利さは人間から考える時間を奪い,怠惰にするかもしれない.また,科学で何でもできるという安心感を持ってしまう.3.11の震災でも防潮堤があるから大丈夫だと思い逃げられなかった方もいるらしい.一方,久慈の石油備蓄基地では所長が逃げるように指示し55名全員が助かった.現在,防災から,減災あるいは避災という考えになってきている.それでも科学の力で何かできないかを考えている.今回の震災でも,防潮堤により助かった方も沢山いる.少しは力任せに何かできるのではないか,あるいは塩釜では松島のおかげで水位の上昇が抑制された.このような事象も今後は学ぶべきだと思う.
 応用地質学と伴に取り組む問題として,豪雨災害,斜面安定,河川堤防の崩壊,盛土の安定は,現在も課題である.河川堤防についても古い盛土の部分は,中身や基礎のことは分からない.さらに協力が必要な分野としてダム基礎,地下空間利用が挙げられる.災害を三匹の子豚の話に例えると,レンガの家が壊れなかったが,狼が台風なのか地震なのかを知る必要がある.またレンガの家を作るにはお金がかかるが,災害の確率と費用を考えないといけない.我々は過去150年の気象のデータで確立の検討し堤防を設計しているが,最近は異常気象が多くさらに経済性も考慮しないといけないことが悩みである.
 河川堤防の話ですが,洪水の時に堤防の中はどうなっているのだろうか.最近やっと堤防に孔をあけ計測できるようになり,現在,岡山では光ファイバーの水圧計を設置し観測している.私の責務は近隣住民に避難勧告を出すことだが,本当に勧告を出せるのかと思案している.
 斜面崩壊は断面二次元で計算してきたが,三次元で計算すると水は谷筋に集まるため谷筋が崩壊しやすくなる.また,飛騨川の事故の後から豪雨になると通行規制がでるが,いつ通行規制を解除するかが課題となっている.斜面が壊れるのかどうかの浸透解析は三次元,力学的な安定性は二次元で解析するように提案している.崩壊時期を予測できるのかというと,非定常でものを考えると初期の水分量と応力分布が分からないため議論ができない.雨が降ると浸潤前線が地下水面に到達したときに斜面内部が正圧になり,大きな浸透水圧が斜面方向へ働くので危険と考えると,斜面の不飽和は関係ないのではないか.排水の対策や,飽和になっても崩壊しないように擁壁を作っておけば降雨浸透における斜面崩壊は対策が可能となるかもしれないと考えている.現地で間隙水圧を計測したときに急上昇したときが危険だが,それでは避難する時間がない.そこで水分量も計測すると,水分量変化には時間的な余裕があり,避難時間を稼げるのではないかと考え以前論文発表した.しかし間隙水圧の変動が急に生じたりすることもあり,いまではそれにも疑問がある.
 今後,降雨による斜面の安定評価においては,このように力学と浸透のカップリングもぜひ考慮してほしい.これはマニュアル化すべきことであると考えている.
 現地で計測しながら斜面安定評価をするために,伝統的な計測方法として,テンションメーターがある.これは常に脱気水を補給する必要があり,その都度負の圧力を開放するため平衡状態になるまで時間がかかる.そこで,負の圧力をかけたまま脱気水を補充し,連続的に計測できる装置を開発した.しかし,現地で負の圧力を測ると徐々に空気圧が高くなる.空気圧は普段はゼロと考えて計測しているので,浸潤前線は到達していないのに間隙水圧が変化してしまう.そこで地中の空気圧の変化を長期間測る装置を開発し,現在現場で使っている.水分量の計測では,最近は土の中の誘電率での水分量を長期間計測ができるようになった.ただし,日本のように雨が多い所では,平時の飽和度が高いため誤差が大きく,測っても変化が出ない場合がある.
 地盤内の浸透特性の計測法では,現地から採取した試料の不飽和の透水係数を求めるのは非常に難しかった.ところが科学技術の進歩で流入量と排出量が精度よく計測できるようになり,セラミックディスクに代わる薄膜も開発され,ダムのセンターコア等の試験もできるようになった.さらに,日本では現場試料の飽和度が高いので,比較的短時間で不飽和の透水係数が求められるのではないかと考えている.現在,挑戦しているのは,原位置で不飽和の透水係数を求めることである.室内実験の結果,初期の飽和度が異なると透水係数が変化してしまう.そこで,一番大きな透水係数を求めるために,試験前に地盤にCO2ガスを入れることで初期飽和度に依存せずほぼ一定の飽和度を得ることができた.課題はあるがこの方法で原位置試験ができそうだ.
 応用地質学の将来展望としてエネルギーに関しては,石油・LPGの地下備蓄は日本の岩盤でも出来ることが分かった.圧縮空気の岩盤内備蓄は,夜間の余剰電力を利用するため原発がなくなれば困難になる.CO2地下貯留は,原発がなくなると火力発電が増えるので課題になる. 海水揚水発電は既に沖縄で実施されているが,少し発想を変え海底下に,太陽光や風力で海中に汲み上げた海水を可変速の発電機で安定した電気にすることを考えている.また,水力の再開発にも期待している.原発の地下立地はコストが高すぎるので議論が先に進んでいない.放射性廃棄物の地層処分も課題である.輸送に関しては,リニアモーターカーやエネルギー輸送がある.地殻変動による発電,蒸発エネルギーによる発電などを考えたことがある.念ずると技がきっと出てくるので,大きな夢を持って,技術屋はそれに誇りを持ってやってほしい.

特別講演「海外業務での光と影-中国での吊橋技術を中心にして-」

沈 赤 博士(株式会社 長大 海外事業部)

 本講演は,これまで国内で資源・環境・エネルギーや土木・災害分野で発展してきた日本の応用地質学を海外でのサイトで展開するための,先行成功例として,長大橋の設計技術を中国で活かした経験について,具体的な長大橋建設の過程を話題としながら,沈赤博士に特別講演を頂いたものである.要旨を以下に示す.
1.橋梁建設の歴史
 中国の橋梁建設の歴史は大きく4つの時代に区分される.
(1)古代道路橋の時代
 BC1500年代から始まり1900年代まで木造や石アーチ橋が多かった.石アーチ橋の黄金時代であった.
(2)近代道路橋の時代
 1900〜1950年代は,戦争や社会混乱で発展がなかなか進まなかった.
(3)現代道路橋の時代
 1950〜1990年代は,中華人民共和国の成立後,海外からの技術は主にソ連からのものであった.
(4)近年の発展
 1990年代以降現在まで,長大橋技術,海上橋梁技術は,欧米や日本の技術を積極的に取り入れ,数では橋梁大国となり,技術的にも吊橋ではベスト10に6橋が,斜張橋では同7橋が入りこの内トップ3を独占するに至り橋梁強国にもなった.目覚しい発展を遂げている.
2.目覚しい発展の仕組み
 中国でこのように目覚しい発展を遂げた背景は,ひとえにプロジェクトの計画から工事着工〜完成まで,建設管理体制や国の行政組織の事項決定が迅速であることに起因する.このため,一つのプロジェクトも4−5年で完成し,その技術蓄積が直ぐに次のプロジェクトに生かされることになる.通常,計画から着工までの順序は以下のようである.
@ 予備FS 設計業務は委託を受けた国内のコンサルが行う.コンサルと大学の連携も多く見られる(以下大学との連携も含めてコンサルと記す).この段階で国の審査を受ける.この審査では,国の機関(交通部,鉄道部)を中心として,専門家委員会,有力コンサルがその照査に当たっている.
A 本格FS 設計業務は委託を受けた中国国内のコンサルが行う.この段階で基本設計の半分以上を行う.
B 基本設計 設計業務は競争入札によって落札した中国国内コンサルが行う.この段階は中国のチェックコンサルが設計照査を行う以外に日本を含む海外コンサルも諮詢業務(照査とアドバイス)を委託される事もある.
C 建設指揮部が設置される.この組織は完成後の運営も行う.有限責任公司,専門家委員会も設置される.
D 技術設計 特別な橋梁などは国内のコンサルへの委託によって個別技術課題を解決する.
E 詳細設計 委託あるいは競争入札によって中国国内コンサルが行う.
F 工事入札・建設
G 完成後 建設指揮部は解散し有限責任公司に移管し2年後に竣工検査を行う.

3.海外コンサルタントの参入機会と留意点
 2項で示したように,海外コンサルは,基本設計からの各段階で審査する際の照査業務において参入する形となる.換言すれば世界的な最先端技術力を発揮できる部分で参入できると言える.この中で日本国内でのコンサルティングと大きく異なることは,迅速性である.工期は早く,また時間の速さから計画変更も多い.その中で照査では他の工程と同様に速やかな対応が求められる.ただしこのような世界的な先端技術に関しては外国の単価で支払われるため,日本国内のコンサルにとっても迅速性を確保できれば十分に参入できる良い機会となる.

 

シンポジウム

1. 災害大航海時代から国土管理時代へ

佐々木靖人(独立行政法人土木研究所)

 東日本大震災は,現代が未だ災害大航海時代であることを象徴的に示した.安全・安心な社会を効率的に実現するには,どこに,どのようなリスクが存在するかを明確にした上で,それにもとづいた長期的視点で戦略的なまちづくりや国土管理(国土の計画・利用など)を行う必要がある.そこで災害大航海時代から戦略的国土管理の時代にパラダイムシフトするために,土木地質学ならびに災害地質学の視点からの検討方針を述べたい.
 まず,ハザードマップで「想定外」を「想定内」にすることが重要である.このことを実現するためには,@国土ハザードマップ法を整備し,多様な災害を包括的に,高い精度で,危険な地域をカバーできる形でハザードマップを作成し,それに基づく防災国土管理を戦略的に実施していく必要がある.A「国土管理基本情報」を蓄積し,精度の高いハザードマップを作成することが必要であり,その基本情報は,地形や地質,構造物の仕様,過去の災害履歴などが必要であると考えられるが,まだ充分な蓄積はなされていない.B「国土管理地質図」を作成し,ハザードマップやインフラマネジメントに活用できる工学地質図とする必要がある.
 さらに,地質リスクを明らかにすることが必要と考えられる.このためには,@地質調査報告書には地質リスクを明記することが必要と考えられる.AJISで工学地質調査(土木地質調査)を規定すれば,地質リスクを明確に位置付けることも可能と考えられる.B地質リスクナレッジDBを構築することにより,地質リスクの発見方法,調査方法,リスク評価方法,リスクコミュニケーションの方法などをあわせて標準化し,地質リスクをきちんと調査・評価できるようにしていく必要がある.
 応用地質技術者は,単にハザードマップを作るだけでなく,そのハザードの様相,他のハザードとの同時発生の可能性,二次的なハザードへの連鎖の可能性,ハザードによって発生し得る損失の質や様相など,できる限り具体的に想定することが必要である.応用地質技術者がこのようにリスクコミュニケーションの実施者となることで,事業者や国民の信頼を得て,応用地質学的な提言も社会に受け入れやすくなると考える.

2.環境地質学の現状と今後の展望

稲垣秀輝(株式会社環境地質)

  応用地質学分野において,環境地質学が脚光を浴びるようになったのは最近のことである.まず,1960年以降には地盤沈下や水質汚濁などの公害対策としての法令整備とともに,環境影響評価という手法が用いられるようになった.1970年以降には廃棄物処理の方法や場所の選定に係わる研究が増加し,1990年代にはハイテク産業の成長にあわせて土壌・地下水汚染が大きな問題となった.さらに,2000年代には生態学と地盤との係わりを地形・地質学的に研究されることが多くなり,より広域な生物多様性の研究や資源・エネルギー問題,地球温暖化などの気候変動のようなグローバルな地球環境の問題に発展し,環境地質学の役割は日増しに大きくなってきている.このように環境地質学は,地質学を基礎として人間と人間社会を主体とした環境問題を解決する実務的な学問である.
 環境地質学が取り扱う内容は年々多様化し,専門性も深くなってきている.しかしながら,地質屋の社会貢献度合いや社会的発言力,信頼度が格段に向上してきているとは言えない状況にある.環境地質学の学問体系は広範囲にわたり,様々な知識が必要となり,結果としていろいろな分野の専門家と協力し合いながら環境問題を解決していくこととなっている.このような状況下で環境地質屋は積極的に社会に出て,自然科学に立脚した知識に立って発言していく必要がある.持続可能な社会を構築するためには,環境地質学は重要な学問であり,社会に大きく活躍できる時期に今来ていると考える.
 環境地質学をさらに発展させるためには,日進月歩に進化する地質学の基礎知識を日頃から吸収していくこと,常に市民の考え方や社会情勢の変化を把握すること,周辺学問の知識を積極的に取り入れることが必要不可欠である.また,周辺学問との連携を取り合いながら,主導的な立場で一般市民や社会に環境地質学の成果を出し続けていくことが重要であると考える.

3.応用地質学の方法論としての地形情報取得技術の進歩と未来

向山 栄(国際航業株式会社)

 今後の応用地質学の目指すところは,人口減少社会に対応しつつ,エネルギー大量消費社会からの脱却を図り,国際的に通用する産業構造を維持・再構築することである.このためには,国土の最適な利用法の再検討が必要であることは明らかである.その基本的な論理や情報を提供する学問分野として,応用地形学が貢献するところは大きいとの考える.
 我が国は先進国として非常に恵まれた豊かな自然環境が残されているが,これも輸入された化石燃料や原子力エネルギーをふんだんに消費していることと表裏一体である.これらのエネルギーの安定供給が危ぶまれる現状において,自然の理にかない,かつリスクが小さく,分散型でバランスの取れた国土と資源の利用方法を,今後も模索していくことになるであろう.
 地形学は「地表面の形態から,固体地球の表層を構成する岩石物質と水,および地球内部からの噴出物が,重力に従って移動する過程と,それを制約する様々な境界条件とを明らかにし,これらの因果関係を探求する学問」と考えられる.地形学は,様々な領域において応用地質学と関わり,地質学と地形学双方の論理と知識が必要な領域が大きい.
 最近の10年間では,GPS測位技術の広範な利用と航空レーザ測量技術の実用化によって,高解像度,高時間分解能の地形情報の面的な整備が急速に進んでいる.この結果,地形情報の解像度は飛躍的に向上し,狭い空間で起こる微小な事象の過程を詳細に再現できるようになっている.また,モデル化した数値地形情報を時系列的に用いることにより,写真判読では困難な地表の微小な変化や,現地踏査や読図では意味づけが困難であった微小地形は,応用地質学的に意味のある情報として認識できるようになりつつある.このように地形の解像度が高くなれば地表面の動的現象の時間分解能が向上することが期待でき,地形情報からの災害予測などの精度向上が大いに期待できる.
 今後は,3次元的に稠密な精度の良い地盤情報を少ない地下データから効率よく構築するために,地形情報を用いて積極的に支援ができるような地形工学的論理体系を構築することが一層求められるようになると考える.

4.地下水を扱うという立場から考える応用地質学の将来展望

徳永朋祥(東京大学)

 応用地質学が主たる対象とする課題は,時代の変遷とともに大きく変わってきている.開発とそれに伴う諸問題という問題設定から,環境問題・廃棄物処分・自然災害への対応といった課題へと関連する問題が広がってきている.このような現況を踏まえ,地下水に関する科学・工学に携わるものとして,今後さらに研究すべき課題,応用地質学における地下流体挙動に関する取り組みについて重要と思われること,また日本が経験してきた事象とその対策に関する知見・技術の蓄積をどのように活かし,世界へ貢献していくかという考え方を提示したい.
 人間社会は地圏から様々な恩恵を受けており,人間生活に不可欠なエネルギー資源である化石燃料や金属・非金属資源のほとんどすべてを地下から採取・利用している.また,地球上に存在する水のうち,液体として存在する淡水の大部分は地下水として地圏に賦存している.この他,エネルギー資源の岩盤内空間への備蓄,高レベル放射性廃棄物の地層処分,二酸化炭素の地中貯留などの地下の特性を生かした地圏利用も進んでいる.
 人間社会は,活動範囲を広げる過程で地圏を高度に利用し,一定の成功を収めてきた.その一方で,利用・開発に伴う地圏の反応が我々人間の予想と大きく違うことも発生し,その度に様々な災害を経験してきた.人間が今後も地圏を高度に利用していくことを念頭に置いた場合,我々人間はこれまで以上に地圏環境に関する理解を深めていく必要があり,地圏環境と人間社会との相互作用の理解を目指した研究にもさらなる展望が望まれる.その結果として,我々人間はエネルギー・資源開発,地圏環境保全,持続可能な地圏の開発を適切に実行することが可能になると考えられる.
 また我々人間は,これまでの開発における成功例や失敗例(災害)の経験を生かし,今後の人間活動における無駄な失敗を避けることが極めて重要と考えられる.高度に開発が進んだ日本での経験は,今後開発が進むであろう開発途上国での活動に適切に還元されることが望まれ,その観点からも応用地質学に関わる技術者の活躍が様々な地域・分野で強く期待される.

5.総合討論

司会:中筋章人(日本応用地質学会副会長)

 総合討論は時間の都合により,中筋副会長と各講演者の一問一答方式で実施した.その概要を以下に記す.
Q(中筋副会長):「ハザードマップ法を作ろう」等の提言をされましたが,例えば,佐々木さんの定年退職までにできるでしょうか.見通しを聞かせてください.
A(佐々木氏):飛騨川バスの転落事故のように,少なくとも法制に関しては何かがあれば変わります.今回の東日本大震災は,変える機会です.例えば,液状化マップやハザードマップをもっと精度の高いものを作っていかなくてはならないこと,調査しないといけないことを,今主張しなければ今後1,000年は機会を失うかもしれない.この機会を大切にし,提言していくことを,学会に対してもお願いしたいことです.
Q(中筋副会長):環境地質学は一般社会や市民に主導的に成果を出し続けていけるでしょうか.
A(稲垣氏):応用地質学会としていろいろやっていかないといけないのですが,各会員が個人的にアメーバ的に活動していくことが大事であると思う.例えば,私は建築関係の雑誌に地震と防災のマニュアルを書いていますが,日本中の主要な都市の古地図を並べて解説している.いろんなことで市民に対して活動をしていくのは大きなことで,このようなことは応用地形の委員会ができることであり,こういった活動をしていくことがよいと思う.また,地盤工学会で地盤調査法の改定をしており地盤環境調査法の主査をやらせていただいている.これは防災,環境調査,維持管理の調査を対象としているが,そこだけが基準がない.この分野にはまだ基準がないことが大きな課題となっている.
Q(中筋副会長):技術の発展によりどんどん小さいものが見えるようになってきましたが,細かいものを見ているとその周辺の大きなものが見づらくなります.微地形を見るにも適正なスケールというものがあると思います.そのあたりの考えを教えてほしい.
A(向山氏):我々が物を見るために虫眼鏡や望遠鏡,顕微鏡を開発し,よりリアルワールドを見られるようになった.肉眼で見ていたものもツールを使うことでより理解できるようになったということだと思う.
Q(中筋副会長):応用地質学の将来の展望は明るいでしょうか.
A(徳永氏):明るいと思っています.地質学的に山とかを観察しているといろいろなツールができてきてその情報には地質学的な理解をする上で有意義なものがたくさんある.それを地質屋が地質学を理解するために使っていくと,我々の理解はどんどん正しい方向へ行って,結果として我々はより適切なことを社会に発信していけるのではないか.我々は地質学の分野に踏みとどまることなく,さらに周辺分野を取り込んでいくことができれば,応用地質学の将来は明るいと思う.

 

「東日本大震災がもたらした応用地質学の問題」

 

千木良雅弘(日本応用地質学会会長)

 4名による各分野からの講演の後,学会を代表して千木良会長からメッセージが発せられた.その概要を以下に示す.
 今回の東日本大震災がもたらした応用地質学の問題としては次の7つの視点がある.
@津波
A液状化
B盛土の地すべり
C自然斜面
D古い断層の活動
E亜炭坑道の崩壊
F温泉噴出
 今回は,この内@〜Eまでについて考え,応用地質学が一層重要性を増したことを訴えたい.
@津波
 従来は,津波は狭い入り江での対策が中心であり,広い平野では人々はあまり心配していなかった.しかし古地震調査を行うと,古い時代の津波があったことが明らかになっていた.869年貞観地震での津波は,今回とほぼ同じ範囲に到達していることが推定されていたが,広く長い平野に防潮堤などのハード対策を実際に行うことの困難さが,災害対応を暗に妨げていたことは否めない.
 福島第1原発での津波被害においても,工学的判断の結果約6mとされたが,今回は15mの高さに及んだ.今後は,地震に残された津波記録(事実)を解読する必要性を強く感じる.津波記録(事実)を率直に受け止め,事実を説明できない理論にはどこか穴があると真摯な姿勢で対応していくことが重要である.
A液状化
 従来の研究では,調査密度の問題もあり,液状化する場所の予測には信頼性が高くなかった.今回の被害では,埋め立てられた湿地,川 海浜,干拓地で多く液状化が起こっている.これまでの数値を駆使した高度な定量化も必要ではあるが,古地図から読む液状化評価,定性的な歴史評価から先ず立ち入るべきであり,土地の成り立ちの理解の上に定量評価を行って液状化予測の信頼性を向上させるべきと考える.このようなデータベースが必要である.
B盛土の地すべり
 今回の被害では,造成宅地の地すべり,クラックが顕著であった.このような変状は高度成長期に宅地造成として埋め立てられた谷で発生した.このことから,造成地における被害想定でも,土地の成り立ちの理解の上に定量評価を構築することが必要であり,そのデータベースが必要と考える.
C自然斜面の地すべり
 今回の被害では,長距離移動,高い流動性を特徴とする地すべりが見られた.地すべりが生じた地質は,古土壌でハロイサイトを伴うものであった.降下火砕物の崩壊性地すべりである.過去の1949年今市地震,1968年十勝沖地震,岩手宮城等の地震では火砕物の地すべりが頻発したが,今回は地震規模に比して地すべりは少なかったと言える.過去の地震では先行降雨量が多く,今回の地震では少ないことが,この違いの大きな要因となったと考えられる.今後は,地すべりを繰り返し発生しやすい降下火砕物等全ての物質がどこにあるのかを知り,先行降雨を考慮して斜面の安定性を評価する必要がある.
D古い断層の活動
 今回の4月11日の余震では,活断層だけでなく,既存の地質断層沿いにも変位が発生した.この事実は活断層と認定されていない断層でも厳しい条件下では変位する(受動的な変位も含めて)ことを示し,地質断層についてもその変位を考慮する必要がある場合があることを示している.
E亜炭坑道の崩壊
 岩手県や宮城県では浅い地下で狸掘りがなされていたところで,地震動により陥没が生じた.今後はどこに古い亜炭坑道があるのかを調べてデータベース化する必要がある.
以上,今回の大震災は防災対策に際して,これまでの現時点での定量評価だけでなく,過去の地形地質の履歴,被害の痕跡という定性的な事実の理解が先ず大切であることを我々に示したと言える.この過去の事実を詳細に明らかに工学的定量評価の精度を向上させるためには,まさに応用地質学がこれまで以上に重要な貢献をしなければならないと感じる.

 

「50周年記念出版物の発刊について」

大塚康範(設立50周年記念行事特別委員会 記念出版物編集部会 幹事)

   平成20年に学会設立50周年を迎え,これまで記念出版物の執筆編集を行って来ましたが,いよいよ平成23年10月末発刊の運びとなりました.来たる発刊の折にはぜひお手元で御覧いただきたく,ここに会員各位へ出版物の内容を紹介させていただきます.
出版物のタイトル:
 「応用地質学-基本・技術・実用-(仮題)」
発刊の経緯:
 日本応用地質学会設立50周年を契機として,これまで「応用地質学/地質工学」を形成・発展させることに寄与した業績を設立50周年記念行事特別委員会の下で取りまとめて,今後の応用地質学におけるマイルストーン(節目)としたいとして発刊を計画しました.
発刊の目的:
 応用地質学の基本論理とこれまでのあゆみ,さらには応用地質学に関わる様々な学問・技術分野におけるエポックメーキングな文献の抽出およびその解説により,応用地質学の体系化を目指します.
発刊予定日:
 平成23年10月末,札幌での研究発表会での発刊を予定しています.
内容:
第I編 応用地質学の基本論理と構築のあゆみ
 50年の我が国における応用地質学をまとめる上での基本的な考え方と,応用地質学会設立前から現在までの歴史を綴り,今後の応用地質学の発展を展望します.
第II編
II-1応用地質学の実用分野
 応用地質学がこれまで主に社会に貢献してきた分野を取り上げ,これに関するエポックメーキングな文献を抽出し紹介します.
II-2応用地質学の周辺分野
 応用地質学を形成することに寄与してきた学問・技術分野を取り上げ,これに関するエポックメーキングな文献を抽出し紹介します.

 最後に本委員会の小島圭二委員長は,応用地質学における基本論理として現象論,物性論,方法論それぞれの立場とそれらを総合化して「解釈と判断」をすることの重要性を述べられています.今回のシンポジウムの講師の方々も同じような視点で講演されていたように思います.応用地質学の取り扱う分野が拡大しても,現象論,物性論,方法論それぞれの立場から考え,自然に学び,科学的根拠をもって知を結集させることが今後の応用地質学の新しい発展につながることを理解する上で,この記念誌発刊がその一助となることを切に願うものです.


(文責:緒方信一・岸 司・田中姿郎)