令和元年9月27日に開催されました、「平成30年北海道胆振東部地震災害調査 合同報告会」において、会場内で質問票に記入いただきました質問につきまして、可能な限り回答させていただきます。
 公開は8月末までの予定です。
【注意事項】
1.回答につきまして、合同発表会(2019.9.27)時点での見解であり、また目的に応じた調査・検討が不十分な点もあることから、回答自体や主旨を他に用いることを禁止します。
2.(一社)日本応用地質学会北海道支部および北海道応用地質研究は、回答の内容につきまして一切の責任を負わないことをご了承ください。
(一社)日本応用地質学会 北海道支部、北海道応用地質研究会


質問に対する回答(Q&A)
Q1. 地域で地震の違いは一般的に起こることなのではないか?
A1. 一般的に起こりますので、その場での観測値が重要となります。

Q2. 地震動による揺れやすさ(固有周期)は、地質により決定されますか?
A2. 浅部および深部の地盤構造により推定されます。

Q3. 地震動の強い南側に対して弱い北側で被害が大きい点について、断層のディレクティビティの影響は考えられないのか?また地盤の周期について、軽石は地すべり移動体の例より大きいのでは?
A3. 断層の主な破壊は南側へ進展したと考えられており、ディレクティビティ効果も南側(むかわ側)が大きいと考えられます。地盤の固有周期は地盤の層厚と物性が関係しています。

Q4. 震源において、「はじめは横ずれ断層で次に北側と南側に破壊が進んだ」という話を聞いたことがある。その破壊の進行方向の影響はないのでしょうか?
A4. 北側へも破壊は伝播しましたが、主な破壊は南側に伝播したようです。

Q5. 地震の速度には関係しないのですか?
A5. 速度・加速度双方での検討が必要と思います。

Q6. 厚幌ダムの地震計のデータは反映しているのでしょうか?
A6. 厚幌ダムのデータは入手できておりません。

Q7. 地震動の卓越方向と崩壊斜面の方向は一致しないか?
A7. 尾根での地震波の増幅や震動方向が影響するとの研究成果があります。

Q8. 場所によって加速度が異なる要因は何が考えられますか?(会場にて質問しました)
A8. 浅部および深部の地盤構造の空間的な変化と考えられます。

Q9. 狭い谷では、なぜ上部谷壁斜面が崩壊の主体であったのか?
A9. 支流河川では、下部谷壁斜面の形成時期が厚真川本流より遅かったことと(下刻は下流側から進行)、谷が狭いために側方浸食が活発だったことが、下部谷壁斜面上のTa-dを残りにくくしたと考えています。さらに、上部谷壁斜面は狭い谷のほうが急傾斜であるため、崩壊しやすかったと考えています。

Q10. 札幌市伏古地区の被害は、自然堤防堆積物の液状化では?(現河川と旧河道は異なっている)
A10. 液状化による被害と考えられる地点を旧版地形図や市街化前に撮影された空中写真と重ね合わせてみると、ほとんどがかつての河道やその周辺に位置していました。また、現在でも周辺より一段低い土地が帯状に連続していることが確認でき、液状化はその範囲内に集中しています。これらのことから、伏古地区における液状化は主に旧河道で発生したと考えています。

Q11. 紹介された変状推定マップは、一般にも公表されているのですか?又は行政機関には提供されているのでしょうか?(会場にて質問しました)
A11. 変状推定マップは地震発生の翌日に国際航業のホームページで公開しています。また、これらの成果は北海道開発局、北海道庁、札幌市役所をはじめとする関係機関にも提供しています。

Q12. 清田区等の変位性はどのように出したのですか?
A12. 地震前の2時期(平常時)に取得されたSARデータを比較して得られた干渉性の変化の特性と、地震前と地震後の2時期(異常発生時)に取得されたデータの干渉性の変化の特性を比較し、干渉性の変化の特性に変化が現れた範囲を「変状があったと推定される範囲」として抽出しています。

Q13. 茨戸のゴルフ場の変状は抽出されていますか?(コース上に大きな変状が出ました)
A13. 今回紹介したSentinel-1という衛星で取得されたSARデータを利用する方法では、主に市街化した地域を対象に解析を行ったため、茨戸のゴルフ場は解析対象外となっていました。このため、変状は把握できていませんでした。ただし、別報告にあったALOS-2という衛星で取得されたSARデータを利用する方法も並行して解析を進めており、こちらは茨戸川の北岸が広範囲にわたって変位している状況が捉えられています。なお、国土地理院が公開している「治水地形分類図(更新版)」では、茨戸のゴルフ場は「砂州・砂丘」に区分されており、該当範囲は砂丘にあたると考えられますが、これには「砂丘間低地」という低湿な地形も含まれていることから、そのような地形を中心に液状化が発生したと考えられます。

Q14. 谷埋地の全てが変位している訳ではないが、どのように考えるか?
A14. 谷埋地の変位については、盛土の材質や締固めの良否、地下水の状況、元地形の勾配など様々な要因が複合して発生していると考えられます。このため、谷埋地であっても変位したりしなかったりという結果になっていると考えられます。

Q15. SARの地震前後の干渉性が悪い範囲が、崩壊発生場所以外にも広く分布している理由について、何か考えられる事はありますか?
A15. SARの干渉性が悪い理由が、地表面にある場合とそれ以外の要因にある可能性があります。地表面に原因がある場合の例としては、地表面が崩壊するほどでなく、わずかに斜面下方に移動した場合にも干渉性が悪くなる場合があります。この場合には光学衛星では抽出できないわずかな地表面の変動、すなわち崩壊の起こりはじめの微小な変状を捉えている可能性があることになります。それ以外の要因としては、大気の影響により干渉性が悪くなる場合があります。山林部分で水蒸気量が多かったために干渉性が悪くなった可能性が考えられます。

Q16. 九州北部豪雨ではSAR画像の乱れが崩壊箇所と一致していたが、胆振東部では広範囲に乱れの拡がりがあったのは何を示しますか。山体の変形?表層土の乱れ?樹木の乱れ?
A16. 九州北部豪雨では、多くの崩壊箇所と干渉性が悪い、すなわちコヒーレンス値が低い箇所がおおむね一致しているように見えました。しかしながら、干渉性が悪い部分のすべてが崩壊しているわけではなかったので、崩壊していない干渉性が低い箇所を現地調査してみました。その結果、表層が完全に落ちたのではなく、地表面に亀裂が走り、わずかに下方に滑っていたり、樹木が傾いていたりして、このような箇所でも干渉性が下がっていることが確認されました。
以上のように地表面付近が乱れる現象が生じている可能性と、水蒸気量等の大気の影響により干渉性が悪くなっている可能性とが考えられます。

Q17. 崩壊地の向きに卓越性はないのでしょうか?(報告会会場にて質問・回答)
A17. 今回の調査では崩壊地の向きについての検討はしていません。地域全体の印象では、斜面の方位が地質構造に依存している地域であるので、どちらかというと地質構造と尾根・谷の関係で崩壊地の向きが決まってしまっているように見えます。

Q18. LPのDEMの地形解析で、古地震によって生じた斜面変動の発生状況を明らかにできないのか? (報告会会場にて質問・回答)
A18. LPを使った詳細地形図等で過去の崩壊地形を確認することが可能です。実際、そのような例が日本応用地質学会研究発表会で報告されています(伊東ほか、2019)。ただし、発生時期については露頭などの地質情報の検討が必要です。

Q19. 大規模地すべりの移動体の一部が日高幌内川の上流と下流にかなり遠方まで広がっているが、これはどの部分からどのように運動が生じたと考えているのか?
A19. 地形を見ると移動体の押し出し部が対岸に衝突乗り上げ、行き場を失った後続部分が上下流側に崩壊して岩屑なだれ状にブロック化して流下したように見えます。

Q20. 過去の地すべり移動体が保存されている事例は大変興味深かったです。こうした地すべり移動体が保存される条件は明らかにされているのでしょうか?(そのままだと、風、雨、地表水などで流されてしまうのではと思いました)
A20. 本報告での事例では、移動体は低い段丘面の上に堆積していました。段丘面は基本的に浸食される場ではないので谷や谷床に比べ保存されやすかったと考えられます。

Q21. 縄文時代の地震と今回の地震のメカニズムの違いは何かわかりますか?
A21. 崩壊だけの情報では地震のメカニズムはわかりません。

Q22. 今回のような崩壊が過去にあったということについて、地震前のLPデータなどから、地形的には判別できないのか?
A22. Q17と同じ内容ですが、地形的に判別できる例も多いと思います。それがいつ起こったかについては、露頭などの地質情報が必要です。

Q23. 過去に地すべりが、地震で発生したのか、大雨で発生したのかは、どのように判定したのか?(伊東)(会場にて質問しました)
A23. 移動体の形状から判断しました。一般に火山灰や軽石のような未固結堆積物が豪雨で崩壊する場合には多くの移動体は水に飽和して分解してしまいます。それに対して地震による地すべりは移動体の斜面がそのままの形状で滑り落ちることが経験的に知られています。これは崩壊のメカ二ズムが異なるためです。

Q24. なぜ、この尾根だけが移動したのでしょうか?
A24. 一般公開されている「地すべり地形分布図」によれば、今回移動した尾根の両側には地すべり地形が分布しています。過去に両側の尾根が地すべりを引き起こしたことで、今回移動した尾根はやや不安定な状態であった可能性があります。

Q25. すべり層はどんな状態なのか?また、すべりのメカニズムとすべり層について?すべり面はどうなっているのですか?
A25. すべり層は礫混じりの細粒〜シルトで厚さは約6cmです。ガラス主体の凝灰質砂岩が上面にあります。これらはほぼ同質の鉱物組成と化学組成を有し、スメクタイトが石英や長石よりも多く含まれ、珪長質ではなく苦鉄質です。すべり層は上面の凝灰質砂岩の高角割れ目(幅1cm弱)沿いに注入していて、凝灰質砂岩が破砕されて生じたと考えられます。破砕され液状化していたと考えられます。すべり層には礫の周囲に流動した組織やすべりによる粒子配列(P面?)も若干認められる程度で、著しい流動や擾乱された組織は認められません。すべり層の下盤は固結したシルト岩で最上部は厚さ1cm程礫主体のシルトで変形し固結度は弱くなっていますが、基質のシルトと下位の固結したシルト岩は遷移しています。

Q26. 崩壊前に河床面よりもすべり面は深かったのか?(移動土塊で泥岩の上に礫層があるので)
A26. 仮排水路施工前の移動体末端には堆積構造を保持した礫層を上位に伴う移動体ブロックが分布していたことから、すべり面は河床面より下位に位置していたと考えられます。一方で、移動体末端のブロック相覆瓦構造間にブルドージングされた河床砂礫が取り込まれることから、すべり面は河床面の途中から地表へ抜け河床面地表付近を通過したと推定されます。

Q27. 仮排水の施工にあたって、地すべりの末端を掘削することになったが、安定度の評価をどのように行ったのか? (報告会会場にて質問・回答)また、右岸に残存した移動岩塊は安定しているのか?
A27. 仮排水路施工前のボーリング調査から得られた各種岩石試験の値を用いて安定解析を実施しています。また、施工中および施工後は崩壊検知センサー、パイプ歪み計、孔内傾斜計による変動状況監視を実施している。

Q28. 東区の地下水位変化の影響とは何を表していますか?
A28. 地下鉄工事に伴う水位低下と、その後の回復のことを指しています

Q29. 南北線と東豊線の変状度の差はなぜか?(南北線について断層、地質、強度はどうなのか)
A29. 地下深さ数m程度の地質や地下水位等の状況が不明であり、変状に差が生じた原因は不明です。

Q30. 里塚の地盤災害は、液状化なのか?沈下量は大き過ぎないか?噴砂があまりに少ないのではないか?
A30. 高含水な状態にあった盛土材(火山灰)が強い震動により流動化し、斜面の下部から大規模に土砂流出したため、大きな沈下が生じたものです。噴砂が少なかったのは地下数m以深とやや深いところが流動化したことによるもので、広義の液状化とみなしています。

Q31. 里塚の水道管、下水管の破断はどこで発生しているのか?里塚では水道管の損傷があったが、これが液状化を促進させたということは考えられないのか?この地区だけ異常に大きな液状化だった原因は何か?
A31. 水道管の損傷箇所は、変形が生じた緩斜面の下部かつ縁辺で、しかも地盤のごく浅部で生じています。地盤変状の発生により受動的に損傷したもので、水道管の損傷により液状化を大きく促進した可能性は低いと考えています。流動化した盛土材が斜面下部から大規模に流出したことが、変状を大きくした主要因と考えます。

Q32. 東豊線の震災は、地下鉄工事の埋め戻し土の影響は考えられないでしょうか?
A32. 埋め戻し箇所でも場所により被害の大きなところ、被害が皆無のところがあることから、地下水位や元々の地形なども考慮して引き続き検討が必要と考えています。